お昼時。自分のお弁当をパクつきながら、はそっと隣へ目をやる。

いつもと同じ焼きそばパンを頬張りながら雑誌を眺めている、恋人。

鴉取真弘先輩を。










だって 大好き なんだもん











(う〜ん…ど、どうしよう)





モグモグと美鶴特製弁当を頬張りつつ、ちらちらと真弘を盗み見る。

あちらはの視線に気付いた様子もなく雑誌の頁を面倒くさそうに開いていた。

何か言いたそうに一瞬口を開いては仕方なく弁当を食べる。それを先程からずっと繰り返していた。





(でもなぁ・・・・・真弘先輩、焼きそばパン食べてるしなぁ)





真弘がいかに焼きそばパンを愛しているか、というのはよくわかってはいる。だからこそは迷っていた。





(お弁当、作ってきたのになぁ)





そう。は実は弁当を持ってきたのだ。今朝から美鶴と共に作った、手作り弁当。

真弘に何か言われたわけではなく、ただ単に彼に自分の手作り料理を食べて欲しい。そんな思いからだった。

だがいざお昼になってみれば緊張しすっかり手渡す機会を逃してしまった。

もう今更「お弁当作ってきたんです」なんて言うのは躊躇われる。

足元に置いた鞄の中に放置されてしまった、哀れなお弁当。もう今日は諦めて持って帰るかと諦めた時だった。





「遅れてすまない」





ふいに屋上の扉が開き、そこに現れたのは姿が見えなった祐一。もう皆食べ終わったという頃合にどうしたのだろう。

祐一は迷いなくの目の前に座る。そんな彼はいつものお稲荷さん弁当ではなく、パンを手にしていた。





「あれ、祐一先輩…どうしたんですか?パンがお昼ご飯なんて珍しいですね」





袋を破ろうとしていた手を止め、祐一がに向き直る。不思議に思っていると彼は憔悴しきった顔で告げた。





「今日は弁当を忘れてしまってな。
 それで購買に買いに行っていたんだが、予想以上の人に飲まれてこんな時間になってしまった」

「あぁ、それでですか。でもパンだけなんて栄養バランスがよくないですね」





仕方ないと言う祐一に、ははたと自分の弁当を思い出した。

このまま持って帰って自分が食べるよりも祐一に食べてもらった方が、この弁当もいいに決まってる。

真弘の為に作ったものだが構わないだろう。

彼はもう食事を終えてしまったし、今度もっと美味しそうな物を作って渡せばいい。

そう考えるとはいそいそと弁当を取り出した。





「祐一先輩、あのこれ・・・よかったら食べてください」

「これは・・・?」





突然差し出された弁当に驚き、尋ねてくる祐一に照れたようには笑った。





「実は今日料理の練習がてらにもう一つ作ってきてたんです。持って帰るのも勿体無いので、よかったら。
 あ、でも美鶴ちゃんほど美味しくないですよ!」





驚愕の表情を消せないままの祐一に頬が熱くなるのを感じる。やはり、こんなものいらないだろうか。

そう思ってやっぱりいいですと弁当を下げようとしたら、祐一がしっかりとその弁当を掴んだ。





「いや、ありがたくもらおう。それに俺はの手料理が食べられて嬉しいぞ」

「そ、そうですか・・・」

「あぁ」





ふわりと優しく微笑まれると何だか照れてしまって仕方ない。

それでも嬉しそうに笑うと、思いがけないところから声が上がった。





「ちょっと待てーい祐一!その弁当は、俺様が食う!!」





いつの間にか隣にドーンと仁王立ちしている真弘が、よこせと言わんばかりにその右手を伸ばしている。

怪訝そうにする祐一の隣でが焦ったように口を開いた。





「は?え、ちょっ・・・真弘先輩?」

「なんだ真弘。お前はもう食べ終わったんだろう?これは、俺がに貰った物だ」





顔にこそ出さないものの祐一は真弘に渡すつもりは毛頭ないらしい。

つーんと横を向いて弁当を抱えてしまった。





「なっ・・・いいんだ、俺様は!ちょっと小腹が空いてるところだったんだからな。いいから、さっさとそれをよこせ!」

「嫌だ」

「祐一!」




頑なに拒む祐一に真弘が食って掛かる。そんな2人の様子に、が慌てて口を挟む。





「もう真弘先輩ったらどうしちゃったんですか!?
 先輩はさっき『お腹いっぱいだー、もう何も食えねぇー』って言ってたじゃないですか」

「そ、それはだなぁ・・・。と、とにかくだ!俺様は小腹が空いたの。だからこの弁当は俺が食う!」

「真弘、の手作り弁当を渡したくないならそう言え」

「んなっ!?」




途端にボッと、火が点いたように真弘の顔が朱に染まる。

わけがわからず「え、え?」と言いながら2人をきょろきょろと見るに目をやりつつ、祐一はあっさりと話す。




「つまりだな、真弘は本当は腹は空いてないが、折角のの手作り弁当を俺に食べられたくないということだ」

「ゆ、祐一ぃぃぃぃぃーっ!勝手なこと言ってるんじゃねーよ!!」

「違うのならばなおさらこれは渡せないな。お前はもう飯は済んだのだろう?」

「そーいう問題じゃねぇっての!」




ぎゃあぎゃあと喚き立てる真弘に一向に引かず、祐一も弁当を離そうとしない。

そんな二人の前で、が小さく呟く。




「本当、ですか・・・?」

「あ?何だよ

「私の手作りのお弁当、食べたいって・・・・・本当ですか?」

「そ、それは―-―――」





祐一が勝手に、と続けようとした言葉を飲み込む。

の顔がほんのりと赤く染まり、肯定の意を望む、その表情を見てしまった。

不用意に答えてはいけないと理解する。

なぜならそれは






「・・・・っほ、本当だよ。悪いか」





あぁなんて馬鹿なんだろうと悪態をつく。

だが答えた瞬間、が真弘に極上の笑顔を向けた。




「えへへ・・・。なら、もっと早く渡せばよかった」

「だ、だからその弁当は俺によこせ!ありがたく俺が食ってやるよ」





照れながら手を差し出すと、渋々といった感じで祐一が弁当を渡そうとする。

するとそれまで嬉しそうに笑っていたがはっとした表情をすると、はっきりとした口調で答えた。





「あ、でもそれとこれとは話が別です。そのお弁当は祐一先輩のものですよ」

「んな・・・なんだよ!てめー、どういうことだよ!!」

「だってもう祐一先輩にこれはあげちゃったんですもん。
 真弘先輩が食べたいって言ってくれたのはそりゃあ嬉しいですけど、これはあげられません」

「どーいう理屈だそりゃ!祐一、さっさとそれを渡せ!」

「・・・・・・・がこう言うんだ。残念だったな」





言うが早いか祐一が弁当の蓋を開ける。

そして真弘が口を開く前にその中身を口に放り込んだ。

屋上に響く、叫び声。

固まる真弘の隣で祐一は美味しそうに弁当に舌鼓を打っている。





「くっそー・・・折角人が素直に答えたのによ、なんだよの奴」





ぼそぼそと文句を呟く真弘の隣にすっとが近寄り、そっとその耳元で囁く。





「今度はもっと凄いのを作ってきます。真弘先輩の好きなものいっぱい入れて、たくさん練習してきます」

「・・・・あ?」

「だから、次からは真弘先輩だけのものですからね」





悪戯っぽく笑い、はそそくさと祐一の側に行き何かを話す。

呆然と立ち尽くしその言葉を何度も頭の中でめぐらすと、真弘は思わず笑った。







後日、真弘の元には珍しくお弁当があったとか。










あとがき

ようやく書いた、真弘先輩です!
先輩・・・口調がわかりませんっ!こ、これ確実に偽者ですよ。
っていうか偽者も本当いいとこですよ・・・(撃沈
お弁当ネタです。お弁当ネタは全員一度は書いてみたいお話ですよね。
初っ端からお馬鹿な扱いしてすいません・・・・・・