手作りのケーキに特製料理の数々。

必死に台所で戦いを続けて数時間、すっかり準備が整った。







世 界 で 唯 一 の 貴 方 の 日








『9月8日は大蛇卓の誕生日』





それをが知ったのはつい最近のことだ。

恋人ならばそれくらい知っていて当たり前、などと思われても仕方ないがは知らなかった。

まさかこんな直前になってから発覚するくらいなら知らないほうがよかったかもしれない。

そうすれば少しくらいの言い訳も通じたのに、などと駄目な方向へ考えは向かう。

そしては慌てて誕生日の準備をしたのだ。





「さて、料理はこれくらいでいいかな?」





机の上には特製料理が所狭しと並んでいる。

折角2人で迎える初めての誕生日というわけで、他のメンバーは呼んでない。

卓も「さんがそう望むなら」と笑顔で承諾してくれた。

彼を驚かす為にも時間を稼がなくてはしけないということで、卓を風呂に無理やり行かせてから時間が経つ。

すっかり整った準備の前に突っ立って時計を見れば既に夜も更けていた。






「卓さんまだかな・・・。じゃあ、プレゼントでも取って来よう」





身に着けていたエプロンを脱ぎぱたぱたと小走りで荷物を取りに行く。

少し大きめの鞄の中に大切にしまっておいた、プレゼント。

喜んでくれるかと思って微笑むと後ろから声がかかる。





「おや・・・そんなところで何をしているんですか?さん」

「す、卓さん・・・・?」






慌てて背後を振り返れば、そこには湯上りの卓が楽しそうに笑っていた。

一度見たことがあるとはいえやはり卓は美人だ。そんなことをぼんやりと考える。

ただ今回は既に眼鏡をかけている。

そんなの姿に卓は微笑む。





「えっと、その・・・あ、卓さん準備できてますよ!」

「あぁ、そうですか。じゃあ暖かいうちにいただきましょう」





明らかに不自然な行動にも卓は笑っているだけだ。

その笑顔に頬が熱くなる。

いつも大人だなと痛感させられた。





(だから今日は、私がいっぱいお祝いするんだから!)





の決意も新たに席へと着く。

驚いたようにしたあと、嬉しそうに卓がお礼を言った。

嬉しくて、は微笑み返す。





「それにしてもこれだけの料理を作るのは大変だったでしょう?」





食事をしながらふいに卓が尋ねる。

ぼーっとプレゼントのことを考えていたは一瞬間を置いてから、急いで返事をした。





「それ程じゃないですよ。こう見えても、結構簡単に作れるんです」

「……さんは、料理がお得意なんですね」

「得意って言うか…でも作るのは好きですよ!まぁ美鶴ちゃんには敵わないんですけど」





あははと笑うに、「いいえ」と卓は言った。





「確かに彼女の料理も美味しいですが、あなたの作ったものは特別ですよ」

「えっ」

「本当に美味しいですよ」





笑顔と共の賛辞。それは恐ろしく効果があった。

たちまち顔を赤くするに卓は楽しそうにするだけだ。




そして食事も終わり、随分と2人で話しこんでしまった。

今日は前々から泊り込むことになっていたため、時間を気にせず話すことが出来ると浮かれている間に夜も更けた。

時計を見たは慌てて立ち上がる。





「わ、ごめんなさいもうこんな時間!ちょっと待っていてください」





卓をその場に残し台所へと急ぐ。

冷蔵庫で冷やしておいたケーキを取り出し、居間へと運ぶ。

その前にポケットにプレゼントを入れておくのも忘れずに。

ケーキを手に再び現れたに、卓は笑顔を浮かべた。





「お待たせしました、ケーキです!料理と一緒に作っておいたんですよ」

「それは楽しみですね」






いそいそとケーキを切り分け卓の前に一切れ置く。

その瞬間目が合ってしまい、本当に嬉しそうに笑う卓に恥ずかしくなってしまって思わず目をそらす。

頬が赤くなるのを感じながら、も自分の分を切り分ける。





「…本当に、ありがとうございます。料理だけじゃなくケーキまで下さるなんて」

「そんなに凄いものじゃあないですよ?でも、喜んでくれて嬉しいです」





あははと照れ隠しで笑う。

卓の眼差しを感じ、胸の高鳴りが止まらない。

少しの躊躇いの後、はポケットからプレゼントを取り出した。

綺麗にラッピングされた包み。取り出された物体に、卓は目を見張った。





「卓さん、お誕生日おめでとうございます。これ…プレゼントです」





おずおずと渡し様子を伺う。

だが卓は呆然とした面持ちで、プレゼントを見つめていた。

そしては、卓の誕生日を聞いたときからずっと伝えようとしていた言葉をついに口にした。





「今日この日に、卓さんが生まれてきてくれたことに感謝します。卓さん、本当におめでとうございます」

さん……」





照れたように笑うを見つめた後、卓は今日一番嬉しそうに笑った。






「えぇ、私も生まれてきてあなたに出会えたことに感謝します。そして・・・・・ありがとう」






最愛の人の誕生日。

頑張って作った料理よりもケーキよりも、一番は貴方からの言葉。

それだけでこんなにも幸せになれる。


この先の誕生日も、ずっと隣にいて欲しいのは貴方ただ1人だけだから。


心からの想いを込めて。


“生まれてきてくれて、ありがとう”



あとがき

遅れましたが、卓さんハッピーバースディッ!!
当日に途中まで書き終えたのですが、最後まで行くのに時間がかかってしまい申し訳ありません。
甘く、甘く…と呪文のように唱えながら書いたのですが甘くなったのか?(汗
兎に角卓さん誕生日おめでとうございます!