目の前にある白紙のプリント。
提出期限は明日、と記されている。
一体どうしたものかとは居間で唸っていた。
綴 る 未 来
「どうしよう・・・・・。美鶴ちゃんに相談?いや、無理だよね。かといって清乃ちゃんにもなぁ」
うーんうーんと頭を捻りながら考え込んでいるを気遣いながらも、美鶴は邪魔はせず台所で料理の支度をしていた。
普段ならばが「私も一緒に作るよ」と言って参戦してくるのだが、どうも今日ばかりは違うようだ。
何やら明日提出らしいプリントと、学校から帰宅してからずっと睨み合いをしている。
しかし矢張りこのまま放っておくのも出来そうにない。事実、美鶴の料理のスピードはいつもより格段に落ちていた。
ちらちらと居間を覗いてはふるふると首を振り、そして料理を進めるもまた覗く、という行動の繰り返しだ。
このままでは埒が明かないと美鶴の方も考えていた時、玄関からよく通る声がかかった。
「あら?どなたかしら・・・・・・」
は考え事に忙しいのか来客の声にすら気付かない様子だ。
そっと台所を抜け出し玄関に向かう美鶴の前に、予想外の自分物がいた。
そして、彼女は名案を思いついたのだ。
机の上にあるプリントの一番上には『進路希望調査書』とでかでかと書かれている。
そしてやはりその希望を書く枠の中には一文字すら記されてはいなかった。
そう、はコレに悩んでいるのである。
「玉依姫の仕事をする、じゃ駄目だもんなぁ。かと言って大学、とかいうのも絶対に違うし。な、何て書けばいいの!」
あーっと小さく叫んで勢いよく机に突っ伏す。
コツンと軽く額をぶつけると、そのまま今度は机と睨み合いをした。
どれだけが思い悩んだところでこのプリントの提出期限は間違いなく明日だ。
うっかり今日まで書くのを忘れていたは、慌てて書こうとしたのだが、よくよく考えればどう進路を書けばいいのかわからなかった。
このまま玉依姫としての仕事をするのはわかっている。
しかし、それをそのまま書くことが出来ない、というのが一番の問題なのだ。
「卓さんに、相談・・・・・・しようかな」
ぽつりと恋人の名を口にした。
あの優しい笑みを思い出すとふいに胸があたたかくなり、自然と微笑が浮かぶ。
その時
「はい、何の相談ですか?さん」
「っ!?」
「こんばんわ」
がばっと顔を上げると、いつもの着物姿の卓が優しい笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。
思いがけない人物の登場に、あわわとは焦った。
そしてプリントの存在に気付き慌てて隠そうと手を伸ばすも、その行動を見越していたのか卓がひらりと素早く取り上げる。
数秒その内容を読んだ後、卓はあぁと漏らした。
「進路希望調査書ですか。懐かしいですね。そういえば、私も高校のとき書かされましたっけ」
「す、卓さんも?」
「はい。勿論ですよ」
にっこりと笑いかけられると顔が熱くなるのが嫌でもわかってしまう。
しかしとしてはそのプリントを見られるのは恥ずかしくて堪らないので、返してくださいと手を差し出す。
「今書こうとしていたんですよ。だ、だから返してください」
「そうなんですか?私が此処に来たとき、随分と悩んだ声を出されていたのに」
「うっ・・・!聞いて、いたんですか?」
「はい」
涼しげな笑みの裏に有無を言わせぬ威圧感が見え隠れする。
嘘はつけないなと、観念したようには告白した。
「あの、それが何を書いたらいいのか全然わかんなくって・・・・。も、勿論高校を卒業したら今よりもっと、玉依姫として頑張るつもりです。だけど」
「だけど?」
「それは書けない、から」
あくまで聞かれている内容は“一般的な高校生”の回答。
それを理解しているからこそ、は悩んでいるのだ。
なのに卓は不思議そうに首を傾げるだけ。
「何をそんなに悩む必要があるのか、私には解りかねますが?」
「だって、普通の高校生の進路じゃないですよ!もっとこう、進学とか、就職とか・・・・」
「でもそれは違う。そういうことですよね?」
「・・・・・・はい」
思わずしゅんとする。
その姿を見、卓は優しい声色で囁く。
「なら、もう書くことは1つしかありませんね」
「え、す・・・卓さん?あのちょっと」
「貸して下さい」
言うが早いかの手からシャーペンを攫い、さらさらと何かを書き綴っていく。
何を書いているのか気になったが、覗き見るのも怖くて、卓が書き終えるのを待つ。
そして卓は自分が書いた答えに満足そうに頷き、プリントをへと返した。
「どうぞ。これで、この問題は解決ですね」
「え?」
渡されたプリントの一番上、“第一志望”と書かれた枠の中に、達筆で一言。
「“大蛇卓に永久就職”・・・・・・・・・・」
「何か問題でも?」
えーっと、とはその言葉の意味を図りかねていた。
(永久就職って、ことは・・・・)
大蛇卓に、ということは卓さんの元に、ということ。
永久・・・つまり、死ぬまでずっと?
卓さんのところに死ぬまでずっと・・・・・・
それはつまり
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「おや。それほど驚くことでしたか?」
の反応に驚いたのか、卓は首を傾げるとクスクスと笑った。
一方の方と言えば顔を真っ赤にしてパクパクと口を動かすだけだ。
卓の真意を測るように、赤い顔のままおずおずと見つめる。
「あ、あの卓・・・・さん?」
「なんでしょう」
「こ、これってその、つまり〜」
「わかりませんでしたか?」
なら仕方ないな、と卓は悪戯っぽい笑いを浮かべ、さらりと言いのける。
「私と結婚してください、ということです。というよりも、結婚しろ、ですかね」
「す、卓さん?」
「冗談ですよ」
でも、と言うと卓はすっとの耳元に口を近づける。
心地よい低音が、を震わせた。
「結婚して欲しいというのは、本気ですが」
かぁっと更に頬が熱くなる。
その反応を見越していたのか、くすりと卓は笑う。
「・・・お返事は?」
「へ、返事は・・・」
そんなの、1つしかない
「よ、よろしくお願いします」
そしての進路は、永久就職となったのだ。
あとがき:
はい、久々の更新は相変わらず卓さんで!そしてリクエストネタです。
リクエスト内容は「進路に悩む珠紀と永久就職を提案する大蛇」だったのですが、ど・・・・どうでしょう?
リクに添えているのだろうか(ドキドキ
何だかいつにも増して卓さんが偽者です。うーん、愛だけはあるのになぁ
続編で熱が上がっているうちにさっさとリクエストを書き終えねば!