ぎゅっと強く握り締められた、手。

触れた箇所から伝染する熱に眩暈がしそうなくらい犯される。

心臓の音まで聞かれてしまいのではないか?

そんな気がするほどにドキン、ドキン、と脈打っている。

学校を出てからずっと俯いたままの私を、真弘先輩は見つめてきた。

そして、一瞬の躊躇いの後に呟く。




「―――おい。何か、喋れよ」

「な、何をですか」


「何ってそりゃ、世間話とか色々あんだろうが。

 女ってのは大抵そういうのが好きだろ」


「すいません、無理です」




恥ずかしくて、という言葉はどうにか飲み込む。

2人とも繋いだ手がしっとりと汗ばんでいて滑りそうだ。

けれどそれは決して嫌なものなんかじゃない。

私の返事を聞いた先輩は突然歩を止め、その手を強く握り直す。

そして、今度こそ本当にこちらに向き直って私の顔を凝視した。




「お前な、何で俯いたままなんだよ。顔上げろ」

「ダ、ダメです」

「だからどうして―――」

「だって!」




おずおずと上げた私の顔を見て真弘先輩が驚いたように軽く目を見開く。

だけどそれは私も一緒。

なぜなら




「・・・・・・先輩、顔、赤いですよ」

「う、うるせー!というか人のこと言えないだろうが」




まるで夕日に染まったかのように赤くなった頬と耳。

どこまで同じなら気が済むのかと思い、思わず笑った。




「真弘先輩、おかしい」

「そりゃこっちの台詞だっての」




2人して笑った。

握った手は、決して離さないままに。







(2008/03/28)