触れられる箇所が熱い。熱を持った体が火照って、頭から湯気が出てしまいそう。

羞恥が最高潮に達して、泣きそうになって、ぎゅっと強く目を瞑る。

細かい震えが止まらない指で背に抱きつけば、安心させるように、抱き締め返された。

安心なのに不安で、好きなのに怖くて、受け入れたいのに逃げ出してしまいたい衝動。

恋愛って、なんて―――――複雑、









番外編 : 月の消えた夜









ジェイドと一緒に住むようになって、もうどれくらい経つだろう。

帰るところがないあたしにカーティス家の鍵を渡して、ジェイドは「一緒に暮らしましょう」と言ってくれた。

断る理由もなかったし、勿論嬉しかったから、とりあえず身を寄せることになったのは良いものの。

流石のあたしだって、"そういうこと"があるのは、理解してた。





「・・・・・・・・・どうしよう、寝れない・・・っ」





ベットの上、薄い寝巻きを身につけてがごろごろと転がる。

あーうーと意味の成さない呻き声が、一人きりの部屋に響く。

カーティス家の空き部屋の一つ、ジェイドの部屋のすぐ隣に自室を貰ってからあっという間に日々が過ぎ去った。

ダアトの私室から僅かばかりの荷物を運び、グランコクマで必要な家具を買い揃え、ようやく本腰が降りたのは昨日。

すっかり夜も更け、ジェイドから「部屋に行く」と宣言された時刻は刻一刻と迫りつつあった。





(そ、そりゃあ恋人同士だし一緒に住んでる・・・・というか住ませてもらってるし、全然考えなかったわけじゃないけど・・・。

でもでも、やっぱり、いざその瞬間が来ると緊張するというか怖いというか、あああああ)




抱えた枕を抱き潰す。いっそのこと何処かへ逃亡でも企ててしまいたい。

けれどそんなことがばれたらジェイドになんて言われるかなんて想像がつくし、そもそも、この広い屋敷で迷子にならないわけがないのだ。

今は大人しくジェイドが訪れるのを待つしかない。

それに、ハッキリ何かを言われたわけではないのだから、そう身構えなくてもいい・・・かもしれないし。





「って、言わなくてもわかる、もんね普通・・・・・・」





コンコン





「ひぃぃえええ!?」


、まだ起きていますか?」





ノックの音に思わず叫んでしまい、起きていると安易に伝えてしまった。

自分の迂闊さに叫びだしたいのを堪え、は腹を括って部屋の扉を開く。

扉の向こう側には軽い服を着たジェイドがこちらを見下ろしていた。





「・・・・・・仕事、終わったの?」


「ええ、全て終わらせてきましたよ。

それにしても、気のせいかもしれませんが、先程ノックした後に変な声が聞こえたのですが」


「う、うるさい!!猫だもん、猫!」





真っ赤になって否定したら「そうですか」と言ってジェイドが笑う。

どこか今までとは違う笑い方に、トクン、と胸が高鳴り、自然と頬が熱く火照りだした。

部屋の中に招き入れるとジェイドは真っ直ぐにベットの上に腰を下ろし、膝の上を軽く叩いてを呼ぶ。

乗れ、という意味かと思い、遠慮なく飛び乗った。





「いけませんねぇ、夜遅くに部屋へ簡単に男を入れたりして。

以前も言ったとは思いますが、襲われても文句は言えませんよ?」


「・・・・・・ジェイドだから、いいの」


「おやおや。それほど信用されると、多少罪悪感が沸いてしまいますよ」






おどけるジェイドにぎゅうと抱きついた。

広い胸板に頬を寄せ、カチンコチンに固まった体でジェイドの反応を待っていると、ため息が零れてくる。

肩に手を回され抱き締められ、密着度が上がった。





「・・・・・・・・私が何故此処に今夜訪れたのか、わかっていますか?

もしわからないでやっているのなら、今の言動は自殺行為ですよ」


「わかって、る・・・・つもり。多分」





本当のことを言うとなんとなくでしか理解していない。

でも、そんなこと言ったらいけない気がして、口を噤んだ。





、1つだけ、わかっていてください」


「・・・・・・なぁに?」


「私があなたに"一緒に住もう"と言ったのは、対価を求めたからではありません。

無理強いをして、あなたを私のものにしたいからではない。

だからもし今無理をしてこうしているのなら、今すぐ、否と答えなさい」





ジェイドは、優しい。

普段あんなにも意地悪なのに、が本当に怖がっていたり不安になっていたら、欲しい言葉をくれる。

いつも一番にを優先して、の気持ちを考えてくれた。

だからこんなにも今、恥ずかしいんだ。





「・・・・・・っ」


・・・・・・・っ!?」





ぐい、とジェイドの首に腕を回して引き寄せると同時、口付ける。

触れる程度の優しいキスをしたらジェイドが驚いたように目を見開くも、そっと、瞳を閉ざし口付けを深めてきた。

どくん、どくん。心音が煩い、緊張で張り裂けてしまいそう。

まるで意図したように同じタイミングで離れると、真っ赤になったが小さく呟いた。





「・・・・・・・・・い、痛いのは、やだ」





羞恥と緊張と不安と、ほんの少しの恐怖が入り混じってごちゃごちゃで、気を失いそうな中。

ジェイドがふと笑い答えた。





「善処します」





ベットに体を倒される。

視界いっぱいにジェイドが広がったと認識したと同時、世界が暗転した。

















肌を這う指に過剰に反応を示す。震えるあたしを宥めるように、ジェイドはキスを繰り返した。





「ん、・・・・ジェイ、ド」




胸の頂に触れられ、上擦った声が上がり思わず口を覆い隠す。

ジェイドに離すようにいわれても恥ずかしくて、嫌々と首を横に振って拒絶した。





、手を離して・・・・・声を聞かせなさい」


「や、だぁ・・・ひぁ・・・っ」





否定すると同時に頂を口に含まれて、意思に反して声が漏れる。

敏感な部分を舌で転がされ、絶え間なく与えられる刺激にどうにかなってしまいそう。

必死で声を我慢するのに、ジェイドがそれを阻止しようと攻撃の手を強める。





「も、・・・んぅ・・・・や、変になっちゃう、か、らぁ・・・!」


「変?この程度で根を上げられては、後が困りますね」


「あ、あと・・・・?ひやぁああ」





きゅう、と少し強く摘まれて甘い痛みに悲鳴を上げる。

考える理性を根こそぎ奪われ、ジェイドの成すがままに流されてしまう。

胎内に蓄積される熱を放出したくて、彷徨う腕を伸ばしジェイドにしがみつく。

すると同時。下腹部に違和感を感じて、体を硬くした。





「・・・・・・、大丈夫ですから、硬くならないで」


「で、も・・・・・え、な、何?」


「慣らさないとあなたが辛い思いをしますからね。少し、我慢してください」


「え、慣らすって何―――」





問うよりも早く、ジェイドが触れた箇所から凄まじい快感が背筋を走り、嬌声を発した。

何所に触れられたかも定かではないのに、ジェイドは確かな意思を持ってを攻め立てていく。

翻弄される。意識がついていかない。

反射的に体から力を抜いたと同時、今度は、鋭い痛みがを襲う。




「――い、った・・・あ」


「我慢、してください」


「ふぇ、ジェイド、や、何?やだ、怖いよぉ・・・・」





涙で潤む瞳で不安に駆られてジェイドを見上げれば、飛び込むのはジェイドの辛そうな顔。

息を呑んだに、ジェイドが小さな声で謝った。





「あ、や・・・ひゃああん、や、った、いた・・・じぇいど・・・っ!」





痛さと快楽がない交ぜになる中、胎内をジェイドの指が動き回る。

胎内に感じる痛みと異物感は初めて経験するもので、もどかしい感覚に頭を振った。





「・・・・・・





掠れたジェイドの声が耳に届く。

酷く艶のある声色は、それだけでを優しく刺激して、真っ赤になった。

けれど行為はを待ってはくれず、急速に追い詰めていく。

体が全く言うことをきかない、別のものになったようで、怖くて。

でもそれ以上に。ジェイドに触れられているという事実が、嬉しい。





「まだ、痛みますか・・・・・?どうしても無理なら早めに言ってください。

でないと私の方も、コントロールが効きませんから」


「だいじょ、ぶ・・・・大丈夫だから、ジェイド、・・・・・・やめ、ないで?」





震える指でシーツを強く握り締めた。何かに縋らないと、意識ごと持って行かれそうだった。

の返答にジェイドが息を呑み、一瞬、動きを止める。

荒い息をついて見つめていると、異物感が無くなる。

その代わりに熱い"何か"を押し当てられて、小さく悲鳴を上げた。





「・・・・・・じぇい、ど?」


「痛みを与えたくはありませんが、もしどうしても耐えられないのであれば、私にしがみついていてください」


「え?」


「・・・・・・すみません、





どうしてジェイドが謝るのかわからなくて一瞬きょとんとした刹那。

ずん、と。鈍い、けれど身動きの取れない激痛が体を貫いて、声にならない悲鳴が喉から発せられた。

ハ、ハ、と細かい呼吸を断続的に続け、動かない体でジェイドにしがみついた。

無意識のうちに立てられる爪の痛みにジェイドの表情が歪む。





「った、いた・・・・ひぅ・・・じぇ、どぉ・・・・」


「・・・っ、力を抜きなさい」


「や、無理・・・・・んぅ・・・・ふぇ・・え」





ボロボロと涙が零れ、体の震えが止まらない。

串刺しされたような痛みの中身動きも取れずにいると、優しく、ジェイドが口付ける。

未だ下肢の痛みは拭えないのに、溢れる涙が一瞬止まりジェイドを見つめることが出来る。

頬を伝い汗が肌に落ちた。苦しそうなジェイドの顔があまりにも魅惑的で、呼吸すら、停止してしまう。





「・・・・・・まだ、痛みますか?」





ジェイドがの前髪をそっと流す。

汗で張り付いた髪は気持ちが悪いはずなのに、それさえも気付かず。

ぴくんと、体が反応を示す。





「・・・ふぁ・・・ジェイ、ド・・・・も、おし、まい?」


「いいえ。ですが、これで・・・・あなたは、私のものですよ」


「・・・・・・ジェイド、の?」


「ええ、そうです」





ジェイドが笑うと、痛みは姿を消して胸があたたかくなる。

思わず、「嬉しい」と零して微笑むと、ジェイドが微笑み返してくれた。





「・・・・・・だ、大丈夫だから。もう大丈夫だから・・・・・

ジェイドの、好きなようにして・・・・いいよ」





ぎゅう、とまわした腕の力を強くする。

まだ本当は体は悲鳴を上げていたけど、そんなことどうでもいいように思えた。

ない勇気を振り絞って告げた告白にジェイドは反応を示さない。

む、となって文句の一つでも言ってやろうとした瞬間、開いた口から漏れたのは文句ではなく甘い悲鳴だった。





「ジェイ・・・っひゃああぁあ!」


「今の言葉、責任を・・・・・取ってもらいますからね」





優しく、けれど激しく打ち付けられる腰にされるままに悲鳴を上げ続ける。

声を抑えたいのにそんなことが叶うほどに余裕もなく、空いた手をジェイドに必死に伸ばすのが限界。

生理的に溢れる涙を掬い取られる。目元に落とされた口付けは優しいのに、性急な行為は呼吸を奪うほどで。

ジェイドと、縋るようにその名を呼んだ。





「じぇ、ど・・・・ジェイド、や、ま・・・まって」


「何、ですか・・・・っ?」


「ぁ、ね・・・・あの、ね・・・・・」





息を吸うのも吐くのも出来なくて、それなのに言葉を紡ぐなんて至難の業で。

吐息交じりの言葉を聞こうとジェイドの顔が首元に埋まる。聞く気があるなら、止まってくれればいいのに。

半ばやけくそになっては口を開く。





「す・・・・き、ジェイド、・・・好き、なの・・・だから」


「っ・・・・・・!」


「大好き――――」





涙が零れ落ちた。こんなにも幸せなはずなのに、幸せ過ぎて怖いなんて。

なんて、贅沢なんだろう。





「愛しています、





熱にうなされて揺れる意識の中、ジェイドのそんな声が聞こえた気がした。
















「・・・・・・嘘吐き」





ベットの中、シーツにくるまったまま不機嫌にがもらす。

もう何度目かわからない不満の声に、ジェイドはそ知らぬ顔をして隣で返事をする。





「"善処します"とは言いましたが、痛くしないとは言っていません。

そもそも、痛みを完全に取り除くことは不可能ですよ」


「わ、わかってる・・・・けど、・・・・・・・・・・痛かったんだもん」





ぶす、と頬を膨らまして反論する。

本当はジェイドが悪いなんて思ってはいないが、激痛に対する恨みを文句でしか発散できない。

なんとなく気恥ずかしくて傍に寄れないを、ジェイドがシーツごと抱き締めた。

まだ体は痛みを訴えていてうまく動かせないことを見抜かれている。





「大丈夫ですよ、回数をこなせば痛みはなくなるはずですから。

徐々になれていただければ結構です」


「・・・・・・・うん、・・・・・」





――――――は?





「え、ちょ、回数・・・・・って、何?」


「まさか最初で最後だとでも?今回はあなたの体を気遣って抑えただけですよ。

これでお終い、なんて、言うと思ってたんですか」


「あ、あの、あたしほら、ちょっと腰が・・・・・・」


「これからは何も気兼ねなく触れられますね、





にっこりと笑みを零すジェイドが冗談で言ってるのではないことぐらい明確で。

本気で。実行するつもりだということが、伝わってきた。

蒼白で震えるに、ジェイドは「頑張りましょうね」なんて言って、頭を撫でた。

出来ることなら全力で逃げ出したいだなんて、口が裂けても、言えるはずもなく。

はジェイドに抱き締められたまま震え上がっていた。



















2010/09/04