恋人の時から幾度も身体を重ねていたが、永遠の愛を誓った日、彼は静かに告げた。
"子が欲しい"と。
それは、からしても望んでいる事だし、わざわざ言われずとも自覚はあった。
何故改めて告げられているのかと首を傾げるに、ヴァンは小さく笑みを漏らしたのだった。
小鳥ガ啼ク夜
忙しい彼が帰宅するのを心待ちにしながら、腕によりをかけて夕食の支度を整える。
時計を何度も見ては、そわそわとするのだ。
夫婦という特別な関係にはなったものの、2人の間に急激な変化が起こったわけではない。
関係を現す名が変わっただけなのだと、それまでは自覚していた。
しかしまさか、"夫婦の営み"というものが恋人時代とこうも変わるとは、予想だにしていなかった。
「・・・・・・今日は、ヴァン、帰ってくるのかな・・・・・・」
目の前でコトコトと煮立つシチューに口をつけ、ぽつりと漏らす。
既に時刻は夜を過ぎ、普段ならとうに帰宅している時間を過ぎてしまっている。
多忙な夫が帰宅を赦されず、朝まで待ち続け、結局何日か後に帰って来た彼を出迎えることも少なくない。
長期の任務で傍を離れる時は一言あるからいいとして、急な仕事だと連絡がないので心配になるし、何より淋しい。
(本当はずっと一緒にいたい、なんて・・・・言えません)
本音を言えば、恋人になれたのも奇跡に近いというのに、夫婦だなんて未だに信じられない。
実際にこの結婚ですら、は殆どわけがわかない内に執り行われたもので、いまいち現実味がなかった。
理性を失う程乱れた行為の最中に告げられたプロポーズは、思い出しただけで恥ずかしい。
今が現実だと教えてくれるのは、ひとえに薬指に収まった指輪だけともいえたのだった。
「・・・・・・・この時間になっても帰ってこないってことはきっと、今日も・・・独り、ですね」
もう3日も姿を見ていない愛しい人を思い浮かべて、火を止めた。
何だか食欲が湧かなくて手をつける気にならない。
ふらふらと台所を後にすると、寝室のベットの上に深く沈みこむ。
抱きしめた毛布から彼の匂いを感じて、優しく抱き締めれば、優しい声が聞こえる気がして。
涙を一筋流して、は眠りに落ちた。
* *
ふいにぼんやりと、意識が覚醒する。
何だかちょっと涼しくて、後、酷く息苦しいし身動きが取れない。
回転の遅い頭で寝る直前に何をしていたか思い出そうとしたが、いまいち明確に思い出せない。
しかし唐突に口を塞がれ、呼吸を止められて驚いて目を見開く。
すると目の前に、愛しい夫の顔があった。
「へ・・・・・・・?え、あ、ヴァン・・・・・?」
「ああ、おはよう。目が覚めたか」
「は、はい・・・・・というか、どうして・・・・あたしもしかして、そんなに長く寝ちゃって?」
「いや、今は真夜中過ぎで、恐らくお前はまだあまり寝てはいないだろうな」
ヴァンの答えにほっとしつつも、ふと一つの疑問を抱く。
彼が今目の前にいて真夜中過ぎだということは、彼はこんな夜遅くに帰宅してくれたということだ。
そのまま朝まで仕事場で休んだ方が良いだろうに、わざわざ、帰ってきてくれたのだ。
嬉しくて、は泣きそうになる。
「もしかして・・・・・・・あたしの為に、帰ってきて、くれたの?」
「それ以外に私がわざわざ帰宅する理由もなかろうよ。
3日も無断で留守にしてしまったのだ。随分、寂しい思いをしたのではないかとな」
優しい笑みに嬉しくなって抱きつこうとしたが、しかしヴァンに行動を阻まれる。
深く長い口付を落とされ、先程の息苦しさの原因も判明した。眠っている間に今のように口付けられたのだろう。
離れたヴァンの舌と銀色の糸が繋がり、はあ、と吐息のような息を吐く。
甘い空気に酔いしれているとふいにヴァンの頭が下りる。辿るように視線を下ろし、この異常な状態に気づきぎょっとした。
いつの間にか、ベットの上に裸で横たえられているじゃないか。
慌ててシーツの中に身を隠そうとするが、そんなの行動は目に見えていたのか、ヴァンは腕を抑えて胸の頂を口に含む。
「ひゃうう!や、ヴァ、ヴァン何して・・・!」
「お前が余りにも無防備に眠っていたので、ちょっとした悪戯のつもりだったのだがな。
何時まで経っても目覚めぬ故、こうなってしまったのだ。
それに3日も離れていたんだ・・・・・・こちらも、淋しかったのではないか?」
「た、確かに淋しかったですけど・・・・・って、や、やんっ」
一体何時からこうなったのか判断がつかないが、自分が何も身に纏っていないのに、ヴァンの方は乱れた様子もない。
あまり見慣れない簡素な服装のまま、まるで何事もなかったような涼しい面持ちでの身体を愛撫していく。
抵抗したいのに甘い刺激が身体を走り上手く言葉も発せない。
「ま、待って・・・・や・・・ヴァン、待って!」
「何だ?」
「―――っあ、あたしだけ脱いでるなんて、不公平です!」
紅い顔で思わずそう言えば、一瞬驚いたような表情をしたヴァンがフッと笑い、ギクリと強張る。
この顔はあまり良くない事を思いついた時の表情だ。
「そうか。お前がそう言うのなら仕方ないな。勿論が脱がしてくれるのであろう?」
「え、」
「お前の服は私が脱がしたのだから、私の服もはお前が脱がしてくれねば、それこそ不公平というものだ。
無論、私は別にこのままでも良いが、脱いで欲しいのだろう?」
「う、うぅ・・・・・!意地悪っ」
悪態をつくも事態は変わらない。
から身体を離しベットの上に座るヴァンに、恐る恐る近寄る。
見下ろす瞳は悪戯に細められており、すっかり彼の思惑に乗ってしまった事を今更ながらに自覚してしまった。
緊張で震える指を這わせ、一枚一枚丁寧に脱がせていく。
上半身全てを脱がしきると、露わになる鍛えられた肉体に熱が上がった。どうしよう、頭から湯気が出てしまいそうだ。
真っ赤になって視線をそらすに笑みをこぼし、ヴァンが続きを促す。
「どうした?まだ、上しか脱がし終わっていないぞ」
「わ、わかってるもん!・・・・・・え、えっとその・・・ちょっと、横になって・・・・くれます、か?」
「よかろう」
先程よりは確実に脱がしやすくなったが、既にそういう問題ではない。それどころではない。
覚悟を決めて着衣に手を伸ばすと、視線をなるべく注がないように細心の注意を払って手早く脱がせてしまう。
「終わりました!」と何処かムキになって告げると、ヴァンが楽しそうに笑ったのを感じた。
「そのように目を逸らして脱がされてもな、雰囲気に欠けるぞ。まあ、これも追々、な」
「も、もう・・・・・!もう絶対しませんっ」
紅い顔のままぷいと逸らすと、「残念だ」と至極楽しげな笑いが聞こえてきて心中複雑だ。
どうしてヴァンだけ何時もこんなに余裕があるのかと、毎度のことながら不思議で仕方ない。
うーんと考えていると、トンと軽く肩を押されてベットの上へと身体を沈ませる。
見上げればヴァンの顔。再び組み敷かれてしまった。
「お前の好きなようにさせたのだ。次は、私の番であろう・・・・・?」
「ん・・・・!」
重ねられた唇の熱さに翻弄される間に、指先が下肢へと伸ばされ、くぐもった声が漏れる。
抱かれ慣れた身体はヴァンの愛撫に敏感に反応し、彼を喜ばせてしまう。
唇を離された後も、声を抑えようと両手で口を覆って堪える。
するとふいにヴァンの手が伸び、覆っていた手を奪われた。
「声を抑える必要などない、と言っているだろう。
此処にはお前と私しかいないのだ、もっと、声を聞かせなさい」
(ヴァンが相手だから恥ずかしいのに――――――!)
嫌々と首を横に振るも腕をとられてしまえば抵抗する術はなく、ヴァンの望むとおりに甘い声を上げてしまう。
羞恥に震え潤む瞳に優しく口付を落とし、有無を言わせぬ動きで足を広げさせる。
間に身体を滑り込ませると、ゆっくり、秘められた場所に指を射れた。
「あ、あぅ・・・ひゃあ・・・・・・っ」
「良い声だ」
浅く、深く、徐々に胎内を侵食する指の動きにの身体が跳ねる。
手の動きはそのままに、小さく存在を主張する肉芽を舌先が掠めてきた。
途端身体を走る疼きにが悲鳴を上げる。
ぴちゃり、と蜜部から濡れた水音が否応なしに耳に飛び込み、羞恥と快感で脳が焼かれてしまいそうだ。
与えられる刺激に堪えられなくてぎゅっと強く目を瞑る。
「フ・・・・・・凄い音だな、聞こえるか?お前の蜜でもうこんなになってしまったぞ」
「や、やだ・・・・そんなの、舐めちゃ・・・やぁ・・・」
ずぷりと蜜部から引き抜かれ、ぐっしょりと濡れた指を見せつけるように舐めるヴァンに震える。
直接刺激されているわけではないのに、そんな姿を見せられただけで子宮が疼く。
視覚と聴覚で責められる。溢れ出た蜜にヴァンが気づかないはずもなく、薄く笑った。
「どうした、そのように見つめられてもわからぬぞ。言いたい事があるならはっきり口に出しなさい」
「で、でも・・・・・・」
「何時までもこのままでいいのか?」
疼く身体を持て余し上体をくねらせると、全てお見通しなヴァンはわざとそれ以上触れてこない。
熱く滾る肉棒の先端を蜜部へと押しつけるが、一向に挿入する気配はなく、は堪えられなくなって震えた。
下肢に感じる熱さと、欲情に燃える瞳に晒され、堪えていた気持ちが涙と一緒にあふれ出す。
驚き息をのむヴァンに、告げた。
「ん、さ・・・・さびし、かったの・・・・・。
連絡もないし、何時帰ってくるかわからないし、一人のベットは大きくて・・・悲しくって。
ヴァンは、あ、あたしがいなくっても淋しくないのかもしれない、けど・・・・あたしは、すごく、すごくさびしかったの・・!」
「・・・・・・・」
「だからもう意地悪しないでぇ・・・・・ヴァ、ヴァンの、好きにして・・・。
怖くても、辛くても我慢するから・・・・も、射れてぇ・・・っ!」
涙を流しながら懇願する愛しい妻にくらりと眩暈さえ起こす。
途端、狂おしい愛情が溢れ、更に言葉を紡ごうとするに噛みつくようなキスを送ると同時、一気に挿入する。
「ん、んむ・・・・・んんんんん!」
「・・・っは、全くお前というやつは・・・・!そうやって、私を煽るのはやめなさい。加減が出来なくなるだろう」
「ふぁ・・・い、いいの・・・・ヴァンの、ヴァンの好きにして・・・」
「・・・・・・」
余裕のない表情で眉を寄せ快感に堪えるヴァンが愛しくて、無意識に咥えた彼を締め付ける。
そうすることで余計に彼を感じ、狂おしい快感に意識が薄れるゆく。
ヴァンは細い腰を掴むと激しい律動を繰り返し、の弱い部分を幾度も擦りあげる。
その度はすすり泣く様な声を上げヴァンにしがみ付いた。
「んっん・・・・だ、だめ・・・も、も・・・・・ひゃああん―――!」
「愛している・・・さあ・・・・・・今日も、種付けしてやろう」
「あ、・・・・・や、あ、ああぁあああっ」
「私の子を孕むがいい、」
耳元で囁かれた愛の言葉を引き金に、頭の中が真っ白に染め上げられる。
膨らんだ肉棒が最奥を貫き、子宮口にぴったりと密着したまま、に続く形で絶頂を迎えた。
ドクンと勢いよく溢れた精が直接子宮へと注ぎこまれ、達して敏感になった身体を更に震わせる。
恋人の時は、これで終わりだった。
「あ、ああ・・・・・や・・・いっぱい・・・・」
断続的に精が注がれ、その感触にさえ激しく感じ入ってしまうのに、ヴァンは肉棒を引き抜く気配はない。
一滴残らず胎内へと注ぎ込み終えても結合を解かず、ゆるゆると腰を動かしを刺激する。
孕む為の行為。たったこれだけの違いが、に激しい快感をもたらすのだ。
ようやく引き抜かれた肉棒と同時に結合部から精を溢れさせ、ぷるぷると全身を震わせた。
ふと視線をヴァンへと向ければ、つい今しがた欲を吐き出した筈の雄が、再びそそり立ちの中へ侵入しようとしている。
これから身に起こるであろう快楽に、自然と腰が震えてしまう。
「随分と寂しい思いをさせてしまったようだ。今日は、お前が気を遣るまで可愛がってやるとしよう」
「ふぁ・・・や・・・・も、だめ・・・・」
「お前が私の子を此処に孕むまで・・・・出してやるぞ」
すっとヴァンの指がの腹の上を這う。
その言葉にきゅんと身体の奥が疼き痺れてしまう。嬉しいのか辛いのかわからない。
しかし愛する人に優しくキスされてしまうと抗うことが出来るはずもなく、結局、ヴァンが満足するまで付き合うのだった。
2010/09/04