彼女を"妹"として見られなくなったのだと悟ったのは、もう随分昔の話のような気がする。

11も歳の離れたティアが産まれた時、妹のとは絶対的に異なる感情を、見つけてしまった。

今までに対して抱いていた感情が"妹"に対する物ではないと、理解しまった。

欲にまみれた眼差しを抑えきれない自分に、彼女が怯えてしまわないようにと、距離を置いて。

だがしかし、それは無駄な事だった。

何一つ、気に病む必要はなかったのだから。








歯 車 の 廻 る 音 色







可もなく不可もなく。そんな夕食を用意して独りそわそわしていると、ドアが開く音がする。

相変わらずどんな顔をして向き合えば良いのか、答えは迷宮入りしてしまった。

そうこうしている内に部屋の扉が音を立てて開かれる。その先には、






「・・・・・おかえりなさい、ヴァンお兄ちゃん」


「ああ、久しぶりだな






挨拶もそこそこに、ヴァンが辺りを見回す。その行動する意図がわかり、ズキン、と胸が痛む。






「・・・・・・・ティアなら今朝にはもう出ちゃいました。

ヴァンお兄ちゃんに逢えないのが、ちょっと淋しそうでしたよ」


「そうか・・・・・久方ぶりに顔を見れるかと思っていたのだがな。仕方あるまい」






残念そうにする兄が辛い。逢いたかったと、逢えて嬉しいと思うのは、自分だけ、なのだろうか。

彼の言動の全てが答えのような気がした。苦しい、淋しい。こっちを向いて欲しい。

涙が溢れそうになって、ぐっと、堪えた。






「あ、食事の用意しておいたんです。ヴァンお兄ちゃん、お腹は減ってませんか?」


「では少々貰おう。だが、」


「・・・・?」


「お前も疲れているだろう。私に気をまわしてくれるのも構わないが、そろそろ休みなさい。

食事の支度くらい私一人でも十分だ」





ずきん、






「あ、・・・・・・じゃあ、もう、部屋に…行ってます、ね」


「嗚呼。おやすみ、


「おやすみなさい・・・・お兄ちゃん」






もうこちらを見向きもしない兄に掛ける言葉など見つかるはずもなく、は駆け出して部屋を後にした。

追い出された。もう修復なんて出来ないんだと、思い知らされた。

1人きりになった部屋でヴァンが笑みを浮かべていたことなど露も知らず、は自室へと逃げ込むのだった。








                                    *    *








ベットに入ったって、眠れるわけがない。

毛布の中で丸くなったまま、は涙が溢れるのを止められなかった。





(どうして・・・・あたし、あたしじゃ駄目なの・・・・・?

ヴァンお兄ちゃんは、あたしが妹じゃ、嫌っだ?不満だった?ティアじゃないと・・・だめなの・・・?)





ヴァンとティアはよく似ている。髪の色も、瞳の色も。

なのに自分が彼らと似通った所は何一つなく、本当に血が繋がっているのかと疑問に思う事は多々あって。

それでも昔は分け隔てなく愛情を注いでくれた兄を、心の底から愛しているのに。





「お、にいちゃ・・・・・ヴァン、お兄ちゃん・・・・・・っ」





声を上げないようにするのが必至で、隣の部屋のヴァンに聞こえないように抑えるだけで精一杯で。

だからは気付けなかった。部屋の扉が、静かに開かれた事に。





「ふぇ、ヴァン、おにいちゃ・・・・」


「どうした?私ならここにいるぞ」





ふわりと、頭を撫でる優しい手。おもむろに目を開けて振り返れば、ベットに腰かけて優しく微笑む兄の姿。

訳がわからなくて混乱するに、ヴァンは何も言わず頭を撫で続ける。

伝わる温もりが優しくて、涙腺が更に緩んだ。





「・・・・・・・あ、おにいちゃ、・・・・」


「どうした」


「あたしのこと・・・・・嫌い・・・・・?ティアじゃないよ、あたしが妹じゃ・・・・嫌なの・・・・?

だから最近会ってくれないの?優しくしてくれない、の?」


「そんなことあるわけがないだろう。何よりも、誰よりも、愛しく思っている」


「・・・・・・・・本当・・・・・?」





肯定を示す言葉と、力強い声色に、途端に安心感で胸が一杯になる。

反射的にふにゃりとだらしなく笑みを浮かべた。

だがしかし、彼の言葉はそれではおわらなかった。





「・・・・・・・・誰よりも愛している。一人の、女として、だ」


「・・・・・おにいちゃん・・・・・?・・・・・んぅっ」





ヴァンが覆いかぶさるようにに口付けてくる。突然の事態に、頭が全くついてこれない。

息苦しくて、酸素を求めようと顔を逸らすとヴァンの唇が追いかけて塞がれてしまう。

頭がぼうっとしてした頃ようやく解放され、荒い息をつく。ふと、ヴァンが自分の身体に覆いかぶさっている事に気付いた。






「お、おにいちゃ・・・なに・・・?」


「私はもうずっと前から、お前を妹ではなく・・・・・一人の女として見てきていた。

お前は気付いていなかったのかもしれないが、お前の私に対する感情もまた、私と同じソレなのだよ」


「ち、が・・・・や、待って、おにいちゃ・・・!」





再び口付が降り注ぐ。抵抗したいのに力が全く出ない。

いや、本当に抵抗したいと思っているのか?だって、





(・・・・・・怖いけど、嫌じゃ、ない・・・・・?お兄ちゃんが言うようにあたし、本当は・・・・・)





怖い、嫌だ、と思うよりも、彼に嫌われていなかった、むしろ愛してもらっていた。

その目の前の事実が嬉しくて、それ以外わからない。

口付けの合間に脱がされていく手を制止する事も出来ず、はヴァンに身体に縋り付いた。





「ふぇ・・・・おにいちゃ、おにいちゃん・・・!」


・・・・・愛している、」





気付けば上半身を覆い隠す物が取り払われて、ヴァンの目の前に素肌が晒されている。

その事実に羞恥が勝り、身体を隠そうともがくと腕ごと押えられてしまう。

やんわりと優しく胸を揉まれて、恥ずかしくて涙がにじむ。

一生懸命恥ずかしさに堪えていたのに、眼前の乳房にヴァンが食らいつくと同時、上ずった声が上がった。





「ひゃあぁ、や、やぁ、おにいちゃ、んんっ」





固く尖った先端を嬲られて悲鳴のような声しか上げられない。

もう片方の乳首も捏ねられて、甘い刺激に泣く。

刺激と、何よりもヴァンにそうされているのだという事実が、強烈な快感となってを揺さぶるのだ。





「ふぇ・・・・胸、や、ん・・・・・気持ちいいの、やんっ」


「・・・・・気持ちいなら辞める必要もあるまい?」


「だ、だめ、や、おかしくなっちゃ・・・・ひぅう!」





きゅっと先端を摘ままれると同時、ぎゅうっと目を閉じてシーツを握りしめる。

もう訳がわからなくて、気付けば体中から力が抜け落ちていた。

その気になればヴァンの身体を押しのけて逃げ出せるのに、そんな気はやはり全く起こらない。

甘い刺激に腰から完全に力が抜けきったことを見抜き、ズボンを脱がせるとヴァンがの足を大きく広げた。




「や、やだお兄ちゃん、恥ずかしい・・・・!」





足を閉じたいのに、足の間にヴァンが身体を滑り込ませるからそれ以上閉じる事が叶わない。

羞恥が極限にまで達しようとしているにもかかわらず、彼はの願いなど聞こえないかのように、下着へと手をかける。

抵抗なんて出来るはずもなく、あっという間に、は産まれたままの姿にされていた。





「美しいぞ、・・・・・・」


「ふぇええ・・・・・・・・も・・・・・や・・・恥ずかしい、の・・・・見ないで・・!」





情け容赦なく秘裂に向けて注がれる視線の強さに涙があふれる。

恥ずかしくて死んでしまいたいとさえ思うのに、もっと見て欲しい、そんな矛盾した感情が産まれるのを感じた。

が身体の疼きを自覚する頃、しっとりと濡れるそこにヴァンが触れた。

くちゅり、という音が微かに聞こえる。





「ひっ!ん、ひゃあああっ」


「もう濡れているのか・・・・・・初めてだというのに、感じているのだな。それとも見られて興奮したのか?」


「や、そんな意地悪、言わないでぇ・・・っ!」






他の誰にも触れられた経験等、そもそも自分でだって余り触れる機会のない敏感な部分を無遠慮に触れられる。

理性が羞恥で焼き切れそうな熱が襲ってきて、嫌々をするように頭を振った。

けれど、そんな行為如きでヴァンが止まる、否、止める筈もない。

襲いかかる熱から逃げたいのに赦されない。ポロポロと涙がの頬を伝う。






「い、やぁ・・・・・・!やだ、や・・・・・っ・・・こわ、い・・・・怖いよぉ・・・」


「恐れる事はない。全て私に委ね、そして受け止めよ」






ぐぶり、とヴァンの無骨な指が侵入を果たす。産まれて初めての異物感、そして圧迫感に息さえ詰めて目を開く。

熱い、怖い、嬉しい、恐い。様々な感情がない交ぜになって涙となって溢れだす。

ヴァンの指は容赦なくの膣内を蹂躙し、無理やりにも快感を引きずり出させる。

熱にうなされたはドロドロに溶け切った思考の中、抵抗も出来ぬまま声を上げた。






「ふ、あ・・・・・・ぁぁぁ・・・・も、や・・・・ひぅ・・・っ・・・!」






願いが聞き届けられたのか、突如、勢いよくヴァンの指が引き抜かれる。

瞳に涙を溢れさせて肩で荒い息をしながら、ぼんやりと彼を見つめた。

上着に手をかけてヴァンが服を脱いでいく様を、ただ恍惚とした面持ちで、見つめていた。

再び彼がの身体に覆いかぶさってくるまで、身動き一つ取れぬままに。






「・・・・っは・・ぁ・・・・・・」


「お、にい・・・ちゃん・・・・」







先程まで嬲られていた箇所に何か熱いものが押し当てられて、その熱さに身も心も焼かれる。

嫌悪ではなく恐怖が襲い、は震えて目の前のヴァンにしがみ付く。

"愛している"と囁かれた気がした。それは、錯覚なのかもしれないけれど。






「・・・・やっ・・・!・・・っぅ、たい・・・痛い、の、おにいちゃ、や、・・・!」







ヴァンが腰を進めるに比例して涙が溢れだす。痛い、貫かれてる箇所が火傷しそうに熱くて、気を失う程に痛い。

泣きながら痛みを訴える最愛の妹の涙を唇で拭いながらも、その動きを止める事はない。

結合部から流れる鮮血に、其の総てを奪い尽したという事実に、目の前が赤く爆ぜる程の興奮がヴァンを支配していた。

全てを収めきると、震える小さな身体を抱きしめた。






「愛している・・・・・、もうこれで・・・・私の、私だけの物だ」


「ふ、ぇ・・・・・」


「お前も私を愛しているだろう・・・・・・?」






(・・・・・愛、して・・・・・・?)







涙で滲む視界の向こうにいる兄が何かを問うてる。わからない。よく、わからない。何も考えられない。

ただ静かに、は想いを口走った。






「・・・・・・愛、してる・・・・よ・・・・・」






返事に何か反応があった気がする。しかしそれを理解するより先に、は襲い来る激情に意識を焼かれた。

うわ言のように繰り返す兄の名。囁かれる愛の言葉は呪縛のように、を絡み取って行く。

狂気のような、凶器のような熱に身動き一つ取れず意識を失った。









からり、からり。歯車の回る音がする。

まず一つ、歯車が歪な音を立てた。

からり、からり。修正しようと思っていたはずなのに、どうして、

気付けば歯車はもう、動かなくなってしまっていた―――――――














*兄の歪んだ愛情が発覚した日。
2011/03/08