一つのパンを彼らは半分にして互いに分ける。

初めて買った剣は、2人でお金を出して買ったたったの1本だったから、毎日交代で使ってた。

いつだって背中合わせ。すぐ隣にいる、何よりも掛け替えのない、友人。

私はその輪の中には入れない。私は、その輪の外側にしかいられないことを、寂しいなって、思った。









■ 忠実なる騎士を









じゃないか。いいのかい?こんな所でぼんやりしていて」





夕暮れの市民街の噴水前でぼんやりと本を読んでいた所に声をかけたのは、幼馴染のフレンだった。

綺麗な金の髪に夕日の光が映って、とっても綺麗だなと考えて、は笑った。





「今日はもう店仕舞い!義父さんもいいよ、って言ってくれたから、今買ったばかりの本を読んでたの」


は本を読むのが好きだね。今日のも、またユーリに聞かせてあげるのかい?」


「今回の本は小説だからやらないよ。だって、ユーリったら絶対に途中で寝ちゃうんだもの。

自分から"読み聞かせろ"って言ってくるのに、酷いよね」





くすくすと笑い声を漏らすと、フレンも同じように笑い返してくれると思ったのに、彼はどこか淋しそうに見返すだけだった。

何だか様子がおかしい。流石に鈍感なでもそれを察し、笑みを消した。

どうして、そんな顔をするの?





「・・・・・・よかった。正直、困ってたんだ。泣いてたらどうしよう、って」


「どうして?私、もう子供じゃないもの。そんなにしょっちゅう泣いたりしないわ。

それに泣くような出来事も起こってないしね」


「え?」





驚いた、と言わんばかりにフレンの眼が見開かれた。

この反応は何かある。勘付いて、の表情が翳ると、今度はフレンが不思議そうに呟いた。





「・・・・・・・・、ユーリから何も聞いていないのかい?」





私はいつも輪の外側。

でも、その輪の一番近くにいたいって思って、ずっと一緒にいたはずなのに。

自分が大切だと思うほど、あなたは、私のことを大切だとは思ってくれていなかったのだろうか?








   *  *








ドタドタタタタ・・・・!





階段を駆け上がる忙しない足音を耳にして、ユーリは荷造りの手を一旦止めて眉をひそめた。

こんな夜に一体誰が、と思ったが、そんなのは確かめる必要もないだろう。

あのお節介な金髪の幼馴染がまた何か難癖でも付けに来たに決っている。

扉を破壊されては困ると、相手が到着するよりも一寸早く、ユーリは部屋の扉を開けた。





「はいはい、今日は一体なんの用ですか、っと・・・・」


「っユーリ!!」


!?お前、なんでここに・・・・」





扉の先の客人は金髪の幼馴染ではなく、もう一人の、幼馴染。

誰よりも大切な女の子が、真っ赤な顔のまま肩で息をしながら、ユーリを睨みつけてきた。

嫌な予感がして口篭るユーリを、は逃さない。





「どうして、黙ってたの?」


「・・・・・・何のことだよ。さっぱり、話が見えねぇぞ」


「誤魔化さないで!・・・・・・今日、街でフレンに会って、聞いたの。

ユーリ、とフレンが・・・・・・・・・・・・明日から、騎士団に入っちゃう、って」


「あの野郎、あれだけ口止めしてたってのに」


「フレンは悪くない!だって、ユーリがフレンに"には自分から伝えておく"って言ったんでしょう?

私、そんな話聞いてない。もしユーリ私が来なかったら、フレンに会ってなかったら、何も言わずに行くつもりだったんでしょう!」





の叫び声にユーリが逸らした視線を戻すと、そこには――――――

肩を震わせて、静かに涙を流す少女がいた。





「ど、して・・・・・?私に教えてくれなかったの・・・?

2人が入団するなら、わ、私だって、入団したよ?義父さん達だって説得して、絶対、一緒に行ったのに」


、俺はただ」


「そんなに私はユーリにとって・・・・・・・・どうでも、いい、の?」





女の子だから。歳が違うから。下町じゃないから。

それでも3人で過ごした時間は本物で、今までもこれからも変わらずに"友人"であり続けられると思ったのに。

どうして





「私一人だけ・・・・・おいて、いか・・・・ないでよぉ・・・っ」





嗚咽が漏れる。留まらない雫を必死で手で拭うのに、追いつかない。

後から後から溢れ出す涙を止められず、かといってその場を動くこともせず、は泣いた。

涙でぼやけた視界は酷く不明瞭で、目の前の彼が、どんな顔をしているのかにはわかっていなかった。





「ひとりぼっちは、やだ、よぉ・・・・」


「・・・・・・・悪かった」





手が伸びて、ユーリがの体を抱き締める。

小さなはユーリの肩に顔を寄せて、すんすん、と泣き続ける。

そっと体を離したら今度は無骨な指が涙をすくっていく。それだけで、涙が徐々に姿を消す。

泣き腫らした顔を見て、困ったようにユーリが笑う。





「まあ、言わなかったのも悪かったし、このまま何も言わずに行くつもりだったってのも本当だ」


「やっぱり、私のこと」


「勘違いすんなよ。俺はただ・・・・・・。

俺達が騎士団に入るって言えば、お前も必ず入るって言い出すと思ってたからだよ」





何がいけないの?

瞳でそう語りかければ、やっぱりと言わんばかりにユーリが溜息をつく。





「騎士団っつったって殆ど野郎共の巣窟だ。それに訓練だって楽じゃねぇだろうし、任務もキツイ。

俺はをそんな所に連れて行きたくなかったんだよ」


「・・・・・・私じゃ、役に立てないから?」


「馬鹿、違うよ」




コツンと小さくの頭を叩いて、告げる。





「お前は俺達と一緒に戦うんじゃない。俺達に、護られるんだよ」





一つのパンを半分にしてフレンと分ける。でもそこにがいるなら、パン全部を渡すだろう。

フレンと毎日剣を交代で使うなら、に与えるのは剣ではなく盾。

昔からいつだって何一つ変わりはしない。





「お前は俺たちにとって"オヒメサマ"なんだよ」





騎士とお姫様に憧れた昔、2人はを護る騎士になる役だった。

思い出して、ふと、懐かしさに胸が締め付けられる。あれから一体どれだけの時間が流れたのだろう?

それでもまだ、自分をお姫様と扱ってくれるのだというのなら。





「ユーリは、ずるい」


「ん?」


「そんなこと言われたら、もう・・・・・・・怒れないじゃない」


「ははっ、そりゃ、好都合だな」





軽口を叩く彼に悪態をついた。本当に、口で敵わない相手だ。

けれどやはり寂しさは拭えなくて、そっと、ユーリの服の裾を掴む。





「・・・・・・騎士団に入っても、会いにきてね」


「おう」


「絶対絶対、約束だからね?」





差し出した小指に笑いながらも絡めてくれる事が嬉しくて、微笑む。

約束、と交わした指は温かくて、ほんの少しだけ寂しさが消えるから不思議だ。

寂しくないと言えば嘘になるから、ユーリが心配しないように、笑って送る。





「ユーリに騎士なんて、似合わないね。フレンならわかるけど」


「言うに事欠いてそれかよ・・・・・・」


「冗談だよ。頑張ってね、ユーリ」


「ありがと、な」





満天の星空が見下ろす日、小さな、約束を交わした。













(そうだ、ユーリの騎士姿見に行こうかな!)


(・・・・・・・絶対に、見せねぇぞ)












本編以前。幼馴染達のお話。
実は地味に続きます。でも、連作じゃありませんので、1話ずつでもOK。






2009/11/22