"食事は当番制!"という決め事は、暗黙の了解のうちに成り立っており、今ではそれに異を唱える者もいない。

しかし初めから一緒にいた、ユーリ、エステル、の当番の回数が多いのも、また必然で。

特には料理が得意だからなおのこと回数が増える。

本人は嫌がる素振りひとつしないので、いつの間にか、ここ最近はずっと彼女の当番になっていた。

全員揃っての食事。その一つの光景を、中年の男が、じとーと凝視していた。









■ 愛は胃袋から








「お、それとってくれ」


「これ?はい、ユーリ」


「サンキュ。・・・・・・・ん」


「おかわりだね?足りなかったならさっきよりも多めにするけど、大丈夫?」


「あー・・・そうだな、ちょい多めでお願いするわ」


「・・・・・・・・・・・・」





ユーリとのやり取りのを、不満げな、何か言いたげな面持ちがレイヴンが睨みつけている。

睨みつけていると言っても主にユーリの方なので、何を言いたいのかは大体が察しがつく。

そそくさとおかわりをしてくれているから一旦視線を逸らし、ユーリが面倒くさそうに口を開いた。





「おい、おっさん。言いたいことがあるならさっさと言えよ、折角のの飯が不味くなるだろ」


「えー・・・・・べっつにぃ?おっさん、不満も文句もないもーん。青年の気のせいじゃないのー?」


「・・・・・・その顔とその口調でんなこと言われても、はいそうですか、って信じられっかよ。

なんだ、の飯に文句があるなら、俺が聞くけど?因みに鉄拳付、な」


「ちょ、せ、青年・・・・・それは流石におっさんでもご遠慮願うわよ」


「あれ、もしかしてレイヴン・・・・・・・今日のご飯、嫌いだった?」




グーの形に拳をするユーリにぶんぶん、と拒絶の意を返す。の事となると、彼は本当にやりかねない。

そんな中、手にユーリの器を持ったが帰ってくると、申し訳なさそうにレイヴンに向き直る。

悲しそうな顔を見て、慌ててレイヴンは首を振った。こんな表情をさせたくて言ったわけではない。

彼女の料理はいつも美味しくて、感謝こそすれ文句を言うことなんてない。





「ち、違う違う!ちゃんのご飯はとーっても美味しいわよ、最高よ、うん」


「よかった・・・・・でも、じゃあ、何か嫌いな物でもあったの?あんまり食が進んでないみたいだけれど」


「あー・・・・っと、これは、その、ね」


「おじ様はあなたとユーリのやり取りが、まるで夫婦みたいで妬いていたのよ。

だから折角の彼女の美味しい料理も、あまり進んでいないのよね?」


「ジュ、ジュディスちゃん!」


「違ったかしら?少なくとも、私にはそう思えたのだけれど」





にこにこ、と笑ったジュディスが爆弾を落としていく。

至って我関せず、のユーリは黙々との手料理を平らげていく。反論も肯定もしないらしい。

反対に話を振られたの方はと言えば、ほんのり頬を紅く染めて、首を大きく横に振った。





「夫婦って・・・・な、何言って・・・・!

ユーリとは、えっと、下町にいた時から一緒にご飯を食べてたから、自然と言いたい事がわかるようになったっていうか。

流石に好みとか味付けの仕方とか、把握できてるだけなの」


「あら、それを"夫婦みたい"だと言うのだと思うけれど?ねえ、おじ様」


「・・・・・・・そ、そう、ね」


「まあ俺との関係だからな、当たり前だろ」


「ユーリ!」





紅い顔のが突っかかってくるが、ユーリとしては本望なので、無視。

さらりと牽制をかけておくと、じろり、とレイヴンの視線が突き刺ささった。

本人達は水面下で争っているつもりでも、以外から見れば丸わかりの戦いに小さく溜息が漏れる。

この状態を楽しんでいるジュディスは、さらに話がこじれるように口を開く。





「でも2人は結局夫婦ではないのだから、まだ大丈夫よね、おじ様」





にこり。ジュディスの笑顔が輝いて見えたのは、きっと、ユーリだけじゃない。





「もう、ジュディスまで!ユーリとは付き合いが長いだけなんだから・・・・。

でも最近ずっと食事当番をしているから、だんだん皆の好みとか、わかってきたの」


「あら本当?」


「レイヴンはお刺身とかサバ味噌が好きなんだよね?

あんまり作ったことはないから上手には出来ないかもしれないけど、今度、レイヴンの為に作るよ」





だから落ち込まないで。微笑んで言えば、レイヴンの頬がほんのり色づく。

勿論何の意味もない言葉だとは思うが、こんな一言が、これほど嬉しいだなんて。

嬉しくて、とりあえず、行動で表してみた。





「っちゃん愛してるーっ!もう青年なんて棄てて、俺様の為に毎日サバ味噌作ってちょーだい!」


「レ、レイヴン!?お、お皿、お皿危ないよっ」


「あらあら、プロポーズかしら。おじ様大胆ね」


「てめぇおっさん・・・・何ちゃっかりプロポーズしてやがる!というか、離れろっ」


「いーや!青年なんかには、俺様たちの愛は裂けないんだからね!」


「あ、わわわ」





ぎゅーと抱き締められて反射的に紅くなるに気をよくするレイヴンと、不機嫌になるユーリ。

問題の本人は、レイヴンの持つ皿のシチューが零れないかとそわそわしていた。

いつの間にか食事を終えていた一同は、さっさと後片付けを始めており、騒動は見て見ぬ振りをされる。

日常茶飯事、と一言リタが呟くとそっと同意を示すように皆頷く。






「あれだけ露骨に取り合っているのに、自身が無自覚だなんて、罪よね」





火種を作った本人すら、既に興味をなくして傍を離れてしまっていた。

結局痺れを切らしたリタとカロルが迎えに来るまで、このやり取りは続くのである。








(レ、レイヴン、とりあえずお皿・・・・・)


(おっさん、ちゃんに食べさせて欲しいなー、なぁーん、て・・・・ぐべっ!)


(いい加減に離れろ、おっさん)












一応エピソード2扱いですが、時間軸的にはどこでもOK。
多分、レイヴンが夢主への気持ちを自覚してから。






2009/11/23