心臓の代わりに埋め込まれた魔導器。彼の命を繋ぐ一部。

十年前、人魔戦争で失くしたと彼は何事もなく告げた。

同時に爆音が響き、出入り口を瓦礫が封鎖してしまう。

次々に聴こえてくる爆発音で、アレクセイが此処から誰も生きて出させようとしていない事に気付いた。

死ぬつもりだったのだ、初めから。涙が溢れそうになった。


「一人で勝手に終わった気になってんじゃねぇ!」


ユーリの怒声が聞こえる。ふいに、顔を上げたシュヴァーンと眼が合う。


「最後までしゃんと生きやがれ!」


シュヴァーンは一度だけ眼を閉じると、困ったように笑った。

そして彼は、"レイヴン"の言葉を呟いたのだった。







■ 貴方はここに






シュヴァーンが取りだした弓を引き絞り、出口を塞ぐ瓦礫に向かって矢を放つ。

爆発が起こり瓦礫は飛び散り、退路が姿を現す。

皆で逃げよう。がシュヴァーンの手を取った。






・・・・・・」


「お説教は、後で沢山します。いっぱい、いっぱいするわ」






だから、と言葉を続けようとした瞬間、地鳴りのような音が響き天井に亀裂が走る。

崩れ落ちる天井に悲鳴が上がると同時、かばわれる様に抱きしめられた。

視界いっぱいに広がる黒の色彩に、その相手がユーリであると解り、彼の名を叫ぶ。

訪れるであろう衝撃に強く目をつむると、閃光が、瞬いた。






「・・・・・・・シュヴァーン、さん・・・・・?」






ぽたり、と一滴の鮮血が流れ落ちるのを、ユーリの向こう側に見つけた。

心臓魔導器から眩い光を放ち、シュヴァーンが独りで天井を支えている。

額から流れた鮮血に、息が、止まるかと思った。






「長くは保たない・・・・・・・早く脱出しろ」






荒い息と共に紡がれた言葉に、首を振った。






「アレクセイは帝都に向かった。そこで計画を最終段階に進めるつもりだ。

あとは・・・・・・お前立ち次第だ」


「レイヴン、レイヴン!」






カロルが彼の名を呼ぶ。躊躇うカロルにユーリが叱咤を飛ばした。

彼の想いを汲んでやらなければ。解ってる、解ってるのに、






「・・・・・・・・シュヴァ、」


「――――――今度こそ」






立ち上がれないの手をユーリが引いて立たせる。

足の動かない彼女を無理やり引っ張って駆け出す。嫌だと、叫びそうになった。

視線をそらせない、此処から離れたくない。涙を溢れさせて駆け出したに、告げた。

彼女にしか聞こえない、小さな声で。






「今度こそ本当に、"さよなら"だ」






別れを告げなければ、別れではないと、レイヴンに最後に逢った時に告げた。

彼はの気持ちにさえ気付いていたのだろうか。の気持を受け止めるように、別れを告げなかった。

なのに、今、この場で別れを告げるなんて。

崩れ落ちる瓦礫で彼の姿が見えなくなるその瞬間、叫んだ。






「――――――っレイヴン!」






「ふっ、・・・・・・柄にもなかったか、な・・・・・・・」







最期に見たのが笑顔ではなく泣き顔だったことだけが、心残りだった。






  * *







「ふ、・・・・・っく・・・・」






溢れた涙に、困ったように"彼"が頬を掻く。

思い切りビンタをかましたのと、仲間の容赦ない制裁を受けたからだろう、彼の頬は目に見えるほど赤くなっている。

彼の見慣れた服の裾を握りしめて子供のように泣けば、「ごめんね」と優しい声が聞こえた。




「わ、わたし、がどんな想いで・・・・・・・ど、して、そんな・・・・!」


「あー、うん、・・・・・反省してます」






シュヴァーンの犠牲に流した涙を無理やり押さえつけ、乗り込んだヘラクレスで。

さも当然のように、飄々と、この男は姿を現したのだ。

ルブラン一行に救出された、もう二度と逢えないと覚悟をした、"レイヴン"に。






「あーあ、レイヴンが泣かしちゃってるよ」


「え、ちょ、ちょっと少年!?」


「そうだな。を泣かせた罰として、もう一発殴っておくか?」






拳を見せつけるユーリに青くなって首を振った。

既に全員から一発ずつ美味しく頂いているのだ、これ以上は出来れば勘弁してほしい。

泣きやまない、むしろ止められなくなっているの頭を撫でると、目を赤く腫れさせた小さな彼女が見上げてくる。

失ったはずの心臓が罪悪感に蝕まれるのを、確かに自覚した。







「でも、ま、ちゃんからなら甘んじてもう一発殴られるわよ、おっさん?」






冗談めかせて言うと、ふるふるとが首を横に振る。

ぐす、と鼻をすすり、ごしごしと目をさする彼女が酷く愛しく感じた。





「レイヴン、頬、腫れてるし・・・・・もう、殴らないわ・・・・・」


「優しいのね。あんがと」


「でも、もう絶対・・・・死のうとしたら、赦さないからね!」





ぷい、と顔を逸らすとは恥ずかしそうにレイヴンから離れた。

ようやく落ち着いてきて、先程の自分が堪え切れなくなったのだろう。

思わず抱きしめようと手を伸ばすと、背後から現れたユーリに攫われる。





「あーあと、おっさんはを泣かせた罰で暫く近寄るの禁止な」


「え、ちょ、青年」


「これとそれは話が別だからな。わりぃな、おっさん」





ひらひらと手を振るとユーリはを颯爽と奪い去ってしまう。

1人残されたレイヴンの肩を、ぽんとカロルが叩いた。





「・・・・・・・ま、良しとしますか」





腫れた頬を優しく撫でながら、レイヴンは歩く。大切な"仲間"と一緒に。












(今回の事で1つだけはっきりと自覚した事がある)


(それは)


(君が誰よりも大切な女の子だ、っていうこと)
















*連作としては此処で終わり。後、後日談のようなのもありますが、それはまた別に。
「自分はいずこに」 ⇔ 「貴方はここに」で対にしています。
レイヴン⇔夢主ですね。お互いの恋心を自覚するお話でした。

お題サイト様「コ・コ・コ」より
●そこにある6のお題

2011/05/25